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第2回:Unleashで未来を拓く

2011/09/03 - 林 信行

可能性をunleashせよ

「unleash(アンリーシュ)」という英語がある。「leash(リーシュ)」とは動物などを革ひもでつなぎとめること。その逆のunleashは「…革ひもなどを解く、<犬を>解き放つ」という意味だ。もし、パソコンの写真の横に「Unleash the power」と書かれていれば、それはおそらく「パワーを解き放て」という意味の広告コピーだ。私はこの「unleash」と言う言葉に、もの凄い力強さや勢い、そして未来への期待を感じワクワクしてしまう。それが何故か、ちょっと分析してみたい。

「unleash」という言葉にワクワクする理由は、この言葉が何か新しい変化を予見させるからかもしれない。

例えば、見えない鎖で縛られているかのように毎日、自宅と会社の往復だけして過ごしていた人が、いつもと違う駅で途中下車をしたり、ちょっと先の駅まで足をのばしてみる。それだけで1日が新しい発見に溢れ、好奇心と新しいものごとにチャレンジする活力がみなぎってくる。ちょっとした「冒険」の心境だ。

「冒険」という言葉を聞くと船や飛行機を思い浮かぶ。二足歩行の人類は本来、陸を離れて行動することはできないはずだ。しかし、「船」を発明したことで、自らを「陸地からunleash」し、地球の7割を占める海を航行できるようになった。さらには「飛行機」を発明し、「重力からunleash」したことで、他の大陸や国々との交流を日常に変えることができるようになった。

「それまで出会うことのなかった人と人、物と物が出会うと、そこに何か新しいものが「誕生」する。「unleash」という言葉には、そうした新しい何かの誕生を期待させる一面もある。

ところで「誕生」と言えば、そもそも人の一生もunleashの連続だ。母の胎内から飛び出した子供が「へその緒」という紐を断つことで、人生をスタートする。最初は寝転がっているだけだったのが、やがてハイハイから立ち歩きをし、自らを重力の束縛から解き放っていく。

unleashを始めたばかりの人間には無限の可能性がある。いずれ、次のスティーブ・ジョブズになる可能性もあれば、次の黒澤明あるいはイチローになれるチャンスだってある。やがて、歳を重ねていくと、体力も衰え、重力の束縛が強くなり、開けていた可能性も閉じ始めてくる。それまでの間に、どれだけ高くジャンプし、どこまで遠く逃げ切り、どれだけ明るく閃光を放つかが、運命の分かれ道なのかも知れない。unleashを始めたばかりの子供は、まだそれが決まっておらず、それだけに無限の可能性を秘めているのだ。

「unleash」という言葉には、こうした人の一生分のエネルギーに負けない力強さや可能性がこもっている気がしてならない。


デジタルのスパゲッティー

今日、我々は数えきれないほどのデジタル機器に取り囲まれた「デジタルライフ」の時代を生きている。スマートフォンにパソコン、デジタルカメラ、デジタル音楽プレーヤー。こうしたデジタル機器は、どれも「leash」だらけの形で誕生した。電源のコードがあり、データー転送のケーブルがあり、ヘッドホン、ディスプレイケーブルやハードディスク、iPhone、iPad、その他、諸々の周辺機器をつなごうとすると、どんなに洗練されたデザインのパソコンでも、その周りはケーブルがぐちゃぐちゃと絡み合い、あまり美しいとは言えないことが多い。

コンピューターの業界ではこうした状態を古くから「スパゲッティー」になぞらえてきた。歴史を紐解くと、デジタル機器とスパゲッティーの関係は、コンピューターが一つの部屋を埋め尽くしていた1940年代頃からつづいてきた。第二次大戦中に開発されたコンピューターの元祖と呼ばれるENIACを画像検索してみるといい。これがいかにスパゲッティーな機械だったかがわかるはずだ。

しかし、そんな太古の昔からも、人々は未来にはもっと洗練されケーブルから解放されたコンピューターが登場しているはずだと直感していた。

1968年公開の映画「2001年宇宙の旅」に登場するHAL 9000も、宇宙船と一体型の巨大コンピューターだが、ケーブルは一切目にすることがない。

そう考えると、デジタル技術の進化というものは、まさにスパゲッティーの「leash」を1本ずつ外しながら進化して行くことが運命づけられていたのかも知れない。


デジタルライフをunleash

パソコンが誕生してからの30年間の「unleash」に着目してみよう。

おそらくもっとも早く始まったのは、電源ケーブルの「unleash」だ。一人一台のコンピューター、つまりパーソナルコンピューター(パソコン)というアイディアは1960年代、アラン・ケイという人が初めて唱えた。彼が夢想した夢のコンピューターは、ノートのような形で、子供たちが草原で寝そべりながら使っている絵が描かれていた。

だが、1970年代に登場した初期のパソコンの現実は机の上に置きっぱなしでコンセントにつないで使うデスクトップ型で、持ち歩いて使うことはできなかった。

これがやがてトランスポータブル(可搬型)と呼ばれる小型トランクほどの大きさで、持ち歩いた先でコンセントを挿して使うタイプのパソコンに進化し、1980年代後半には、コンセントからのunleashが始まる。本体にバッテリーを内蔵し、移動中でも膝の上に置いて利用できるラップトップパソコンが登場したのだ。ラップトップは、その後、小脇に抱えて持ち運べるノート型パソコンへと進化した。

最初は動作時間はが1〜2時間だったが、それでも「モバイルコンピューティング」という、まったく新しい世界が広がった。いつもと同じのオフィスではなく、気分転換にカフェや長めのいい場所で仕事をする、こんな今日では当たり前のことも、20〜30年前には夢の生活だった。パソコンが机からunleashされたのをきっかけに誰かがちょっとした冒険心で始めた行為だ。

unleashされたことで、いくつもの新たな「誕生」があった。例えば学会や講演会で、コンピューター画面を投影してプレゼンテーションをする、というスタイルもノートパソコンと共に「誕生」した。

ここで面白いのが、バッテリー搭載でパソコンのunleashが完了したかと思ったら、実際にはパソコンを束縛する新たなケーブルが広まったこと。

そう、ネット接続のためのケーブルのことだ。

ものごとが進化し、新たな発展を遂げると、時にそこから新たな束縛が生まれることがある。 1990年代中盤からパソコンの役目は、ワープロ、表計算、ゲームからインターネットなどのネットワークを使うことに変わっていった。電子メールやWebの閲覧ができないようでは、せっかくパソコンを持ち歩いても意味がない。しかし、ネットを利用するには電話のケーブルやネットワークのケーブルが必要というジレンマが誕生する。

初期のモバイラーは、この当時、日本中に広がっていたグレーのISDN/電話ポート付きの公衆電話を探し、ノートパソコンのモデムから伸びた電話ケーブルを、そこに差し込んで通信をしていた。やがてここでも「unleash」が始まる。日本では1990年代後半、パソコン本体に直接挿して利用できるPHS通信機器が誕生し、公園のベンチやカフェのチェアに腰掛けたまま、電子メールやインターネット検索の調べものができるようになった。もっとも、PHSは通信速度が遅く、屋外で、ちょっと待ちながら我慢して使う通信手段。自宅ではネットワークケーブルを使ってインターネットにつなぐのが、当時の生活だ。

だが、これも1999年、Apple社のiBookと共に安価な無線LANが誕生すると変わってしまう。屋外だけでなく家に帰ってからもケーブル無しでインターネット接続をするスタイルが広がり始めたのだ。

せっかくの自由に持ち歩けるノートパソコンが、家に帰るとADSLや光ファイバー通信装置が置かれた机のそばでしか利用できなかった世界が、無線LANの登場で、ベッドやソファの上で寝そべりながらのインターネットできる世界へと変わったのだ。

この屋内ネットワークの「unleash」は、他にもさまざまな新トレンドを誕生させている。

例えば旅行先のホテル。21世紀に入るや「ロビーで無線LANによるインターネット接続サービスを提供中」と唱うホテルが世界中で増え始めた。ホテルのロビーは、ノートパソコンを開き、メールを読む人々の交流の場となり始めた。日本でもカフェやファーストフード店、駅の構内などで、受けられる公衆無線LANサービスが増え続け、駅のホームのベンチや地下鉄の出口でノートパソコンを開き、約束の場所のメールを確認しているビジネスマンをよく見かけるようになった。


そして時代はスマートフォンへ

デジタルのunleashは、さらにつづく。電源とネットワークケーブルの束縛を解き放ったことで、確かにパソコンのモバイル活用は相当便利になった。しかし、そもそも重さ数キログラムのノートパソコンを毎日、持ち歩くのは、かなりデジタル化が進んだ一部の人だけ。さらに、そんなデジタル化した人達でも、結局はどこか座れる場所を探して両手で向き合える状況が揃わないと使うことができなかった。

2000年代に入り、世間では検索やWeb 2.0で世の中が便利になったと言われていたが、それは結局のところ一部の人達が、一日のほんのわずかな時間しか受けられない恩恵の話しに過ぎなかった。

そんな状況を変えたのが、2007年のiPhone発表だーーこれはまさに革命的なできごとだった。

わずか百数十グラムの軽さが重力の束縛を解き放ち、毎日どこへでもポケットに入れて持ち歩くことを可能にした。それに加えネットワークケーブルの束縛を解き放つ、携帯電話の3Gネットワークと無線LANの2つの技術を内蔵し、いつでも思い立った時に快適にインターネットが利用できた。しかも、10時間近いバッテリー寿命のおかげで、インターネットやアプリケーションを快適に利用できる時間の束縛も減った。

iPhoneは、多くの人々の生活を激変させた革命的製品であり、これからのデジタルライフスタイルの必需品となった(もちろん、その立場をiPhoneだけに独占させないよう、間もなくライバルも、同様の特徴を持つスマートフォンやスマートパッドを投入し始めた)。

これらスマートフォンは、ツイッターやFacebookといったソーシャルメディアと組み合わせて、今、世界で何が起きているかを、その場で知ることもできれば、目の前で起きている事件や日常の小さなできごとを自ら世界に向けて伝えることもできる。何10万本というアプリケーションを使って、ある時は本や新聞、雑誌になり、またある時は地図になり、ゲームにも、翻訳機にも、ICレコーダーにも、写真の加工やネット投稿までできるカメラにも、さらには音楽プレーヤーにもなってしまう。しかも、いざという時には電話にもなる(笑)。

パソコンがそうだったように、便利な道具として定着すると、また新たな束縛が生まれることもある。

例えば肌身離さず持ち歩くスマートフォンは、お気に入りの音楽を持ち歩き再生する音楽プレーヤーとして使われることも多いが、それによってヘッドホンケーブルという新たな束縛が生まれた。しかし、これもBluetoothという技術を使えば、unleashができる。Bluetoothをうまく使えば、iPhoneを充電用のドックに置いたまま、好きな場所、好きな姿勢で音楽を聴いたり、友達との通話を楽しむことができる。また、外出時にスマートフォンを鞄の奥底に入れたまま音楽を楽しみ、帰宅後もスマートフォンは鞄に入れっぱなしでBluetoothのスピーカーから音楽を楽しむこともできる。

これが、どれほど凄いことかは1度、体験してみないとわからないかも知れないが、体験した人は、音楽を聴くという日常の些細な行為にも革命が起きているのだと、改めて実感することだろう。

Bluetoothだけではない。AirPlayという無線LAN技術に対応したオーディオ機器を持っていれば、オーディオ機器をひっくり返して配線をしないでも、親指1本の操作で、iPhoneやiPadの音を、今、目の前にあるオーディオ機器から奏でさせることもできる。テレビにApple TVという製品をつないでおけば、iPhone、iPadで見ていた映画を、指1本でテレビの大画面に映し出すこともできる。リビングで見ていた映画を投影するテレビを、眠くなってきたからとベッドルームのテレビに切り替える操作も、指1本だ。

これらはすべてケーブルのunleash、つまり「ワイヤレス化」が可能にした革命なのだ。


アンワイヤードな世界へ

まもなく1人に1台がスマートフォンを持つ時代がやってくる。そうなった時、このスマートフォンが、無線LANやBluetoothで家電や自動車などと連携することで、さらに新しい日常生活の革命がたくさん誕生するはずだ。

既に欧米では、iPhoneをリモコン代わりにしてガレージの開閉からエアコンの温度調整、照明やホームシアターの操作まですべてできる製品も登場している。アメリカのある大手ホテルチェーンは世界中どこの支店に泊まっても、部屋の無線LANに接続したiPadから、まったく同じ操作でエアコンや照明をコントロールできるシステムを開発中だ。最近、話題のカーシェアリングサービスでも、iPhoneで近くのコインパーキングに置いてある自動車の利用予約を入れた後、iPhoneからの操作で予約した車のドアロックを解除して、車を利用するといったことも行われている(こうすることで無人で車の貸し借りが実現する)。

インターネットが登場したばかりの1990年代中頃、人々が皆、ネットワークケーブルでインターネットをしていた時代に、「ワイヤード」という一世を風靡した新ライフスタイル、新カルチャーを紹介する雑誌が誕生した。

しかし、これからの時代を象徴するのはむしろワイヤーからunleashされた「アンワイヤードな世界」の方だろう。

もちろん、今はまだ過渡期の時代、よく周囲を見渡せば、安いから安定しているからとワイヤードなまま使っている製品も多い。しかし、あなたの生活を縛る、そうしたワイヤーを1本ずつunleashしていくことで、眼前にはもっと明るくワクワクする未来への展望が開けてくるはずだ。

今はもう21世紀。もっと世の中が大きく変わってもいい時代。小さかった頃の好奇心、冒険心を思い出して、「ワイヤレス化」への積極的な一歩を踏み出し、ぜひ、あなた自身を未来へと解き放ってみて欲しい。

林 信行
ジャーナリスト/コンサルタント。
テクノロジーだけでなくデザイン、ビジネスなど多様な視点から最新トレンドとそこから広がるライフスタイルを紹介。国内のテレビ、新聞、雑誌、Webに加え、英米仏韓のメディアに日本のトレンドを紹介したり、海外進出を目指す国内ベンチャーの手助けも行っている。主な著書は「iPhoneとツイッターはなぜ成功したのか」、「iPadショック」など。

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